--2003/03/19----------
◇「"コミュニケーション上手"について」
キャリア・カウンセリングに関わるようになって2年。
いろいろな人と接していて、「コミュニケーションが得意でない」と思い込ん
でいる人が案外いると知った。その中の多くの人は、「上手なコミュニケーショ
ン」について、勘違いしたとらえ方をしていると私は思う。この点について書い
てみたい。
「コミュニケーションは得意でないです・・・」と語る人の話をよくよく聴くと、
たいていの場合、言い換えると次のようなことが言いたいのだとわかる。
・「自己主張が苦手です。」
・「会議などで積極的に発言できません。」
・「営業マンのようにスラスラと話せません。」
・「うまくまとめてわかりやすく説明できません。」
…などなど。
確かにうなづけるものはある。共通しているのは、「発信者」としての、発信の
スキルが不足しているということだ。(加えて、自分に自信がないとか、人間関
係そのものが得意でない場合もあるだろう。が、今回は、この点については述べ
ない。)
この場合、発信者としてやるべきことの何かがつまづいているのだといえる。
たとえば…
・相手が今話を聞いてくれる状況か見極める
(失敗:相手の状況や心境を無視して、自分のタイミングだけで話を伝えよう
とする)
・相手に話を聞いてもらえるように働きかける
(失敗:「お時間いいですか?」「相談があるんですけど」と話を聞いて欲し
いのだというサインを出さない。「聞いてください」という真剣さが
伝わらない話し方。相手に恐れや見下した気持ちなどマイナスな気持
ちがあると、その雰囲気が伝わったりする。)
・自分の頭の中にある言いたいことや情報をきちんと5W2Hなどで整理する
(失敗:感情や勢い任せで話そうとする)
・相手にわかる言葉を使う
(失敗:自分だけがわかっている専門用語やカタカナ用語を使う。
たとえ日本語でも、ひとつの言葉に抱くイメージは人それぞれだとい
う視点が抜け落ちる。ある言い方をして伝わらなければ、言い方を変
えて伝えなおすという工夫をしない。)
など。
では、発信者としてきちんと伝えることができれば、または、冒頭の悩める人た
ちが憧れを抱いているような、堂々とした自己主張や、スラスラと話すことがで
きれば、コミュニケーションがうまいといえるのだろうか?
それは違う。
コミュニケーションは、発信者と、受信者がいて、その間に成り立つもの。
発信がうまいだけでは、「コミュニケーションがうまい」とはいえない。
「受信者」として、相手のいわんとすることをきちんと理解できるか?も、重要
な要素だ。
冒頭の悩める人たちと話していると、彼らは、たしかに「発信者」としてはもう
少しがんばろうと思う点もあるが、「受信者」として優れているケースがある。
たとえば、悩めるおとなしいパタンナーさんやイラストレーターさん。彼・彼女
らの仕事をうかがうと、発注者がラフスケッチやあいまいなイメージで伝えたも
のを、きちんと形にすることができる。控えめな派遣事務員さん、こちらの目を
見て、あいづちを打ちながら、全身で話を聞いているという態度を示す。こちら
も「伝わったな」と感じる。
こういう心構えや姿勢もよいコミュニケーションにはとても大切なのだと、本人
たちのコミュニケーション力を指摘してフィードバックすると、たいていの場合、
意外なことを言われたとびっくりする。
はなから「自分はコミュニケーション(=発信)はうまくない」と思い込んでい
るから、豆鉄砲を食らったハトみたいに目を丸くして考える。
そして、一呼吸してからことの意味を受け入れ、安堵と自信の色を見せる。
「発信者」として課題があっても、「受信者」として自信を持ってもいいのだ。
課題は自分がわかっているだろうから、後は自分でその部分を育てればいい。
くどいようだが、コミュニケーションは、1人だけでは成り立たないのだ。
発信者・受信者、双方にそれなりのスキルがないと、物事はどんどんゆがんで伝
わっていくし、関係も発展性がなくなる。
やたらとしゃべる人に限って、受信者としてはいまいちだったりすることもある。
だいたい、主張しすぎたりしゃべりすぎる人は、発信することに懸命で、受信者
の気持ちや状況を思いやる余裕は少ない。相手を無視している。そういう人が受
け手にまわると、今度は、自分の都合のいいようにしか受信しないことも多い。
結局、伝え手としても受け手としても相手を大切にしていないことになる。
だから、日頃「コミュニケーションは得意(=主張、よどみなく話す)」と思っ
てこの手のテーマにあまり悩んだことのない人は、一度振り返ってみてほしい。
本当の意味でのコミュニケーション上手かどうか…。
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